ブラック労働記 番外編 「気づく現実、落ちる面接」

帰郷するもただ過ぎていく日々…

 

地獄のような原発労働からなんとか抜け出し実家に帰郷することになった

8月も終わりの頃だっただろうか、荷物を積んだ車で街を出た

 

「もう二度とこの街に来ることはない…」

 

そんな事を思いながら実家に戻る、久しぶりの自室は狭く感じるもののゆっくりと眠ることができた

 

そこからの記憶はあまり覚えてはいないが、悪くしていた膝の具合もありニートのような生活を送っていたと思う

実家ということで今までに比べ家事をする時間も減り、快適なはずなのだが一人暮らしに慣れた身としては何処か煩わしさを感じていたと思うズイ

 

地元を離れて5年以上が経ち、学校も仕事も投げだし帰ってきた私は誰かと遊びに行くこともなく、ただ何をするでもなく無為な日々を送っていった…

募る不安と苛立ち

そんな日々を送り気づけば10月だった、原発で働いた分の給料も心許ない…

 

「同期の友人たちは社会に出てバリバリ働いてるんだろうなぁ、それに比べて自分は…」

 

そんな事を思い始めると不安と苛立ちが止まらない…

この先の事なんて何も考えが及ばないが「とにかく働かなければ…」

そう思い求人を調べた

 

そんな中一つの求人に目が留まった

 

【時給1400円 派遣 東証一部上場企業の工場内作業 社員登用有り】

実家からも近く、なによりこの地域では破格の時給に惹かれたのだ

 

早速求人に書いてある派遣会社に電話を掛ける、派遣社員という雇用形態には若干の抵抗はあったが原発労働からすれば何倍もマシだろう

そもそもこの時は自己嫌悪から「まともな仕事に就くのは無理」と思い込んでいたのもあったズイ

 

派遣会社と電話が繋がり求人に応募したいことを伝えると…

 

派遣会社

あ~、この求人応募多いんですよね~

 

とりあえず履歴書と身分証もって〇日にここに来てください、集団面接しますんで

 

「まぁ確かに魅力的な求人だし倍率が高いのも分かる

 

ただまぁこっちも工業系だったし地獄の原発労働を経験したんだ

 

なんとか行けるだろう」

 

そう思いながら履歴書を用意した、久しぶりに書く字は見るに堪えなかったため何度も書き直した…

 

履歴書に貼る証明写真を撮ったが自分でも目が死んでるのが分かって少し笑いそうになったのを覚えている

いざ面接へ

いよいよ面接の日、派遣会社の面接がどんなものなのか想像もつかなかったが最低限スーツだけは着ていくことにした

 

「人生で初めてスーツを着て受ける面接がまさか派遣会社とは…」

 

ただなんにせよ働かなければジリ貧になるのは見えていたし、これ以上何もしない日々が続くと耐えられない気がしていた

 

そんなことを思いながら集合場所の駅で待つ、周りには同じく面接を受けるであろう人がいた

 

しばらくして派遣会社の社員が現れた、スーツ姿に黒縁眼鏡、年齢は20代後半といったところか

なんとなく人を見下しているような雰囲気を感じたが、自己嫌悪になっているからそう思うのかもしれない

 

 

周りに居た人たちはやはり面接を受けるために待っていたらしい、結局自分を含めて5人で駅前のマクドナルドで簡単な面接を受けることになった

 

面接といっても履歴書を派遣会社の社員に渡し、簡単な質疑応答を受けるといった感じだった

 

自分の番でも特に踏み込んだ質問などはされなかったが、夜勤は可能か?という質問に関しては求人に記載されていなかった事なのでNGを出したのを覚えている

 

あっさりと簡単な面接は終わり、派遣会社側から簡単な仕事の説明などを受ける

・求人の内容は良いが1カ月更新

 

・欠勤、遅刻、作業能力が悪いと派遣元からすぐ切られる

 

・大手の企業であり3年以上勤務すると社員登用がある、実績もかなり多いとのこと

 

「なるほど、条件は良いがダメだと思われたらすぐ切られる感じか」

 

まぁそれに関しては頑張るしかない、原発ほど理不尽なことは起きないだろうし

社員登用は期待できないにしても時給が良いなら当面は何とか凌げるだろう

 

 

なんてすでに働ける前提で考えいた、面接は特に手応えがあったわけではなかったが受かった気でいたのだ

 

「だって面接に来た他の応募者は全員私服だったし、年も30歳以上だったから」

 

ここにきてスーツを着て良かったと思った、さすがに浮いている感も有ったが差別化はできたわけだし

結局面接は30分ほどで終わり解散となった、合否に関しては1週間以内に連絡しますということだった

 

こうして車内ニートからニートを経て約半年、ようやく社会復帰に向けて動き出せたことに多少ながら気持ちは晴れやかになったズイ

面接から1週間が過ぎるも…

面接を受けてからは生活リズムを整え、携帯はいつ鳴ってもわかるようにアウトドアモード(爆音)にして備えた

流石に2~3日では連絡は来ないだろう、スーツの件で受かった気でいた私は派遣会社からの連絡を待ちわびていた

 

しかしである…

 

ちょうど1週間を過ぎた頃になっても連絡が来ないのだ…

 

いや、まぁ…「1週間ほど」って言ってたし大丈夫だろう…

ずいずい

 

 

そう思いながら待つこと1週間…

 

来ない!

 

 

いや、まぁ…なんか忙しいのかもしれない

 

仮に落ちてたとしても連絡は来るだろうし大丈夫だろう…

ずいずい

 

 

そうやって気づけば面接を受けてから3週間が経った…

 

某企業風に言えば

「弊社の面接を受けてから早いもので3週間が過ぎました」

である、許せない

 

 

流石にこれはイカン…仮に落ちていたとしても連絡がなければ動きようがない…

ずいずい

 

 

もう待ってられるか!こっちから電話かけてやる!

この3週間、連絡がこないせいで苛立ちと不安はMAXなのだ!

求人に載っていた派遣会社の番号に電話を掛けた

 

 

もしもし、すいません先日○○の求人で面接を受けた者なのですが

 

1週間ほどで合否の連絡をすると言われてから3週間も音沙汰無いんですけどどうなってるんですか?…

ずいずい

 

 

電話に出た人は面接を受けた人ではなく受付の女性だった

 

「申し訳ございません、すぐに担当の者に確認させていただきます」

 

そう言われ派遣会社からの折り返しの電話を待つことになった

幸い折り返しの電話はすぐに来た…が

 

電話を掛けてきたのは面接担当の男だった

 

派遣会社

あ、もしもし~、すいません連絡遅くなっちゃって

 

申し訳ないんですけど、今回はご縁がなかったということで^^

 

「は?」

 

 

いやいやいやいや、流石に落ちたてたとしてもその対応は何なんだ?

こっちは連絡来ないせいで2週間無駄にしたんだぞ!

もう合否なんて関係ない、流石にここは一言いわせてもらわにゃ気が済まん

 

いや、流石にここまで連絡無いのはおかしいでしょ!

 

どっちか分からないとこっちとしても動きようが無いんですよ!

ずいずい

 

派遣会社

いや~、ほんとすいませんね^^

 

もし近くの求人出ましたら優先的に連絡させてもらいますんで勘弁してください^^

 

もうなんか一気に力が抜けてしまった…

落ちたという現実と、無駄な時間を過ごしてしまった事への失意

この男に今更何を言っても変わるもんでもないし、次に行こう…

 

 

思えば入試にしても過去のバイトの面接にしても落ちたことが無かった、そのせいもあってショックは大きかったのだ…

 

 

いや…思えば履歴書を書いている時に薄々気づいていたのだ…

 

5年生の学校を途中で辞めたということは、学歴としては「中卒」になってしまうことに

それを認めたくない無かったのだろう、だからせめて最低限スーツなんて着たんだろう…

 

 

面接に落ちてしまった以上、急いで次を探さなければいけないのに

履歴書を書くのが嫌だったのかまた何もしない日々に戻った…

 

学業から逃げ、原発から脱出した私を待っていたのは

履歴書に書かれた「現実」

派遣の面接に落ちたという「事実」だった…

 

 

気付けばもう11月、金木犀の香りで子供の頃楽しみだった秋祭りを思い出す

「まさかこんな大人になるとはな…」

そんな事を思い、再び自己嫌悪の日々を送るのだった…

 

 

 

次回

ブラック労働記 番外編 第二話「激震!派遣サバイバル」