ブラック労働記 番外編 第二話「激震!派遣サバイバル」

番外編 第一話 ブラック労働記 番外編 「気づく現実、落ちる面接」

原発労働編 第一話 原子力発電所で働いてエライ目にあった話

眠れない日は続く…

派遣会社の面接にすら落ちた私は自分の置かれている現状に気づき絶句した…

 

日中は何をするでもなく、夜更かしをしても寝る前には後悔の念が堪えなかった…

頭の中で堂々巡りの後悔が続き、気づけば朝になるが眠った気がしない

 

そんな状況を何とかしようと求人にも目を通すが、派遣会社にすら落ちる自分にはどの求人も受からないだろうと思い込み、眺めるだけの日々が続いていた

 

 

「あの時こうしていれば今頃は…」

 

 

今でこそ「20歳そこそこの奴が何言ってるんだ、いくらでもやりようはあるだろ!」

と思えるが、当時の自分は只々自分の過去を掘り下げては自責の念に浸っていくのであった…

チャンスを取るか、プライドを取るか…意外な展開

そんな日々が続き、11月の中頃だっただろうか

 

「今年はもう無理かもしれない」

 

そう思って楽になろうとしていた私の元に一本の電話が入った

 

 

もしもし?

ずいずい

 

派遣会社

お久しぶりです、先日お世話になった派遣会社の者ですが~

 

それからお仕事の方見つかりましたでしょうか^^?

 

 

電話の主は前回面接を受けた派遣会社の男からだった

 

(コイツどの面下げて電話してきやがったんだ…)

 

 

合否の連絡を忘れていたせいで数週間を無駄にさせてこの男だが

何の悪びれる様子もなく、相変わらず人を見下したような態度だったのが電話越しでも伝わった

 

 

いや、まだ探してるとこですけど…(うぜぇ)

ずいずい

 

派遣会社

そうだったんですね~^^

 

いやぁ丁度良かった!

この前採用した人が急に辞めちゃったんでずいずいさん働きませんか^^?

 

二交代制で遅くても24時終わりなんですけど^^

 

!?

ずいずい

 

それは意外な提案だった

 

これを受けて私の頭の中で脳内会議が始まったのである

 

ずいずい(怒)

てめぇ都合のいいこと言ってんじゃねぇぞ!

 

お前の見る目が悪くて下手打っただけだろうが!

 

 

確かに腹が立つ…が、あの条件で面接受けずに働けるのは悪くない…

ずいずい(静)


 

ずいずい(怒)

コイツこっちの足元見てるんだよ!

 

あの条件ですぐ辞めるなんて捨て駒みたいな仕事かもしれんぞ!



おそらくそうだろう…


でもここで蹴ったところで何も変わらない…


どうせ傍から見たら糞みたいな経歴なんだ!今更プライドも何もあるか!

ずいずい(静)

 

 

いろんな事が頭に浮かんだが、それでも巡ってきたこのチャンスを私は受けることにした

 

 

…分かりました、是非働かせてください

ずいずい

 

派遣会社

いやぁ~助かります^^

履歴書は前回頂いたので、12月1日からということでお願いします^^

 

初日は私も現場に同行しますので^^

 

 

かくして私は仕事を得ることとなった、原発を辞め実家に帰ってから3ヵ月が過ぎようとしていた頃だった

新たな仕事、新たな上司

仕事と覚悟が決まった事で私の心は多少の平穏を取り戻した、生活リズムを整えたのもあったかもしれないが

 

いよいよ仕事の初日である、近くのコンビニで派遣社員(殴りたい)と合流し派遣先に向かった

 

派遣先は敷地の広い大きな工場でいくつもの建屋があり、敷地内には道路標識があるほどだった

 

「原発を思い出すなぁ…」

 

そんな事を思いながら派遣先の課長と簡単な挨拶・仕事内容の説明を受けた

早速支給された作業服に着替え、担当となる現場に案内される

 

 

現場に着くと担当の係長を紹介され、課長と派遣社員(糞野郎)とはそこで解散となった

去り際に課長にゴマを擦りまくっている派遣社員を見て「この野郎…」と思ったのを覚えている

(今思えば優秀な派遣社員なんだろうが…)

 

 

今後直属の上司となる現場の係長だが第一印象は掴み所の無い不思議な人だった

 

顔がインスマスっぽいといったらいいのだろうか?

 

その風貌もあってより不思議な雰囲気を漂わせる人だった

 

インスマス係長は私により細かな仕事の内容・注意点等を現場で教えてくれた

 

・勤務時間は「7:00~15:30」と「15:20~23:50」の週替わり二交代制

 

・仕事内容は自動車のタイミングベルトを作る部署である

 

・前工程から送られてきた裁断前のベルトを機械に入れて研磨する

 

・研磨された製品に熱転写でラベルを貼り付ける

作業内容自体はシンプルだが、私が知っているタイミングベルトとは違って非常に幅が太いのだ

 

 

この写真は幅数センチのベルトだが、この幅にカットされる前の物が運ばれてくる

概ね幅は1メートル程で、製品の厚みや外周によって様々だがかなりの重量である

おまけにゴムがメインの材質な為にグニャングニャン動くので非常に取り回しが難しい

 

インスマス係長

重たいし、慣れるまでは持ちにくいから握力が持たなかったりね…

 

結構すぐ辞めていく人が多い所なんだけどさ…安全第一で頑張ってよ

 

そう言って係長は現場で働いていた若い男性を呼びつけた

今日から一週間はこの人と一緒に作業をして仕事を覚えてくれとの事だった

慣れない重労働

一緒に作業をすることになったこの先輩も私と同じく派遣社員だった(派遣会社は別)

歳は5つ程上、気さくな人で、顔立ちは整った好青年だが体格は小さく

 

「こんな人が軽々とあのベルトを取り回しできるとは…」

 

と驚いたのを覚えている、なにせ自分で持ってみるとベルトにいいように遊ばれる程難しかったからだ…

 

初日は見ることの方が多かったが、日を追うにつれて作業を覚えていった

それに連れて体力はドンドン削られていく

 

あれだけ眠れなかった自分がベッドに横になって気づいたら眠っていたほどである

 

思えば原発でも車内ニートをしていた私にとって、まともな肉体労働なんて半年以上していなかったのだ…

慣れない作業に重労働では当然だったといえる…

それでもやっていけたのは自分の中の負の感情をぶつけれた事

実家だから家事の負担が少なかったこと

先輩の教え方や、気遣いがあったことが大きかったかもしれない

派遣社員はサバイバル

少しづつ仕事も慣れてきた頃、昼休みに先輩と食事をしていると契約更新の話になった

そういえば面接の時にも聞いたが、この派遣先は1カ月毎の更新なのだ

 

先輩は

「この職場は重労働で途中で辞める人も多いし、使えないと判断されるとあっさり切られるから大変だよ…」

 

と言っていた

確かに働き始めて数週間、自分より前に働いていた交代シフトの派遣社員がいつの間にか変わっていた

 

今月一杯で更新されない派遣社員も他部署で何人かいるとの噂も聞いた…

 

そう、この派遣先は給料は良いが入れ替わりが激しいのである

 

だからこそ仕事ができて穴を空けない人材が残っていくという大手ならではの上手い戦略なのだ

 

新人の私にとって来月の契約が更新されるか不安ではあったが

「絶対生き残ってやる!」

とも思ったのだった

 

幸いなことに私も先輩も年明け1月の契約は更新されることになったが、この影にはとある人の計らいもあったようだった

その事を知るのはまだまだ先の話である

惨めな忘年会と決意

派遣社員として働き始めて3週間を過ぎた頃、年末年始ということで会社は長期の休暇に入ることになった

大手優良企業ということもあってか年末年始やGW等の長期休暇は基本的に10日以上というホワイトっぷりである

 

しかし時給で働く派遣社員にとっては収入源が減る厳しい期間でもあった…

ただ少し慣れてきたとはいえ、久しぶりの重労働で疲労が溜まった私にとってこの連休は救いでもあったのだ

 

 

世間よりも一足早く長期休暇に入った私の元に、久しぶりに友人から電話が掛かってきた

学生時代に仲が良かった数人で忘年会をしようというお誘いだったのだ

 

 

本音を言えば行きたくないという気持ちが強かった

 

なにせ自分の状況を考えれば恥ずかしくて仕方ないのだから

 

ただ、久しぶりに当時の友人と会って話したいし、数年寮生活を共にした彼等なら大丈夫だという気持ちもあり忘年会に参加する事にしたのである

 

 

電車で1時間少し、待ち合わせの場所で久しぶりに会った友人たちは当時と変わらず安心した

 

学校を離れた自分を心配していてくれたことがなにより嬉しかった…

 

積もる話をしながら予約をしている店に入った、が…

 

 

そこには参加する予定のなかった付き合いの浅い同級生が一人いたのである

 

 

その男はなんと言えばいいのだろうか…

いろんなグループに関わっていてその時々で都合のいい場所に所属するような感じの奴だった

知っている人は多いが付き合いはそこまで深くない、そういうタイプの同級生である

 

 

なんだか少し嫌な感じもしたが、仕方ない

久しぶりの友人たちと、当時の馬鹿な話でお酒は進んでいった

 

しばらく経った頃だろうか、酔いも回ってきた頃合いにそれは始まった…

 

 

飛び入りで参加した同級生によるマウント合戦である

 

 

「俺の就職先さ~、〇菱だぜ!三〇!」

 

「将来安泰って言うか、勝ち組確定だわww」

 

「一年間研修で座ってるだけなのにボーナスめっちゃ貰えるしw」

 

他の友人たちも就職しているとはいえ、この男より大手というわけでもなく

皆一同に不愉快な空気を醸し出しながらヤツの自慢話が続いたのであった

 

売り言葉に買い言葉ではないが、友人たちの知りたくもない年収事情なども飛び出してくる

 

この時の私?

 

もちろん言うまでもないだろう…

 

 

「この時の筆者の気持ちを述べよ」という問題を出したいくらいだ

 

楽しかったはずの忘年会は一瞬にして地獄と化したのだ、あまりの自分の惨めさに筆舌にし難い惨めさを感じたのである

その後の事はあまり覚えてはいない、なんとか地獄の忘年会が終わって帰ることになったが終電を逃したのだ

 

 

「泣きっ面に蜂」というが正にこの事だろう

 

惨めでどうしようもない私は年の瀬の寒空の下、家に帰れなくなったのだ…

結局漫画で時間を潰し始発で帰宅することにした

携帯の画面は日付が変わり12月31日と表示されている

 

これほど惨めで苦しい大晦日はこの先の人生であるのだろうか…

 

 

 

 

決めた…

 

絶対今の仕事で正社員になってやる!くそがぁああああああああああああああああ!!!!!!!

 

あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!

ずいずい

 

やり場のないこの感情を、目の前の仕事にぶつけてやると心に誓ったのだ

仕事に全力で打ち込む日々に激震は走る

最悪の大晦日も過ぎ、正月を迎えた

あの日以来働きたくて仕方がなかった…

 

仕事初めまで時間は沢山ある、覚えた仕事をノートに書きだし効率を上げる手を考える

この時原発でお世話になった親方の仕事術が役に立った

 

作業を細かく分けて組み立てていく、無駄なく最短で処理できるように…

 

待望の仕事が始まってからは実践で更に詰める、次の事を考えて、考えて、考えて…

 

 

そうやって仕事に全力を出す日々が続き、一月経った頃だろうか

 

 

気付け生産性が3割以上も上がっていた、前工程も後工程も追い付かず夜勤の仕事も減る程だった

 

夜勤の社員から「これ以上やられたら後の仕事が無くなる!」と苦情も言われた

ただ係長は

 

インスマス係長

君たち何年もやってて同じこと出来ないのおかしくない?

もっと効率考えて仕事しようよ

 

と言ってくれたの

 

これに関しては実際凄い嫌な派遣社員だったと思う…

それからは詰めた時間で後工程を手伝う形で丸く収めることにし、これが上手くいったわけだが

 

 

こうして地獄の大晦日を期に仕事に全力で打ち込んだ私は契約を更新していった

先輩も残っていたが、他の派遣社員はどんどん入れ替わっていた

 

 

「このまま社員まで生き残る」

 

 

一筋の光を見つけた私だったが、ここでどうしようもない出来事が起こったのだ

 

 

2011年 3月11日 14時46分18秒

 

 

その日は夜勤だった、いつものように車を運転して職場へ向かう

仕事が始まる30分前には現場の休憩室に着いた

挨拶をしながら中に入ると皆テレビに釘付けになっていた…

 

 

東日本大震災だった

 

 

テレビには非現実的と思える映像が流れていた…

 

慌ただしく入ってきた課長が

 

「今日はもう全員終い作業して帰るように!」

 

 

事務方は大混乱だったのだろう、結局その日は夕方には仕事が終わり帰宅した

 

翌週の月曜日からも出勤はするようにとの連絡だったが

日に日に生産量が減り一週間も経たないうちに掃除以外の仕事が無くなったのである

 

 

先輩と二人で掃除をしながら話す

 

「もう契約は絶望的だ…」

 

 

3月も終わりに差し掛かる頃、働き始めて僅か4ヵ月

希望から一転、絶望的な状況に陥ったのだ…

 

次回

 

第三話→ブラック労働記 番外編 第三話「新天地」