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原子力発電所で働いてエライ目にあった話「第二話 虚偽と暗黒の健康診断」
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原子力発電所で働いてエライ目にあった話「第四話 因果応報 クズオ逝く」
ただただ辛い毎日…
健康診断の件があって以降、
社長は相変わらず根に持っているようで、
そんな私と対照的に社長に気に入られていたのがクズオだった
仕事のスキル自体は私と同じ素人で、
しかし持ち前の調子のいい性格が気に入られたのか仕事中でも社長
働き始めた頃はクズオと話す事も多かったけどこの頃にはほとんど
そしていよいよ壁を削る作業も終わり、
僅かに風向きが変わる
FA親父の助け船
穴蔵のような現場の仕事も終わりに近づき撤収作業に移ったある日
FA親父は社長と仲がいいのは知ってたので健康診断の件も聞いて
ただFA親父から直接何か言われた訳でもなく、
そんな中、FA親父が口を開いた
「アイツ(社長)と何かあったんか?」
果たしてこの質問の真意は何なのか?
私はてっきり把握しているものだと思っていたけど知らなかったの
それとも知ってる上で何か聞きたい意図があったのか?
全く読めない中、
話を聞き終わったFA親父は
「そうか、確かにアイツが怒るんも仕方ないわ…
でもちょっとやり過ぎやと思うし、
FA親父が健康診断の件を本当に知らなかったのか分からないけど
極限状態での謝罪…
そして仕事が終わり、
車内は私と社長の二人きり、
それでもなんとか勇気を振り絞り健康診断の件を切り出し謝罪した
ぶちギレられるかヒヤヒヤしていたけど、
それから社長はこの業界でいかに人付き合いと信用が大切かを話し
自分の過去、
だからこそ今回の件は本気で怒ってしまった、
人間の心とは弱いもので、
もはやマインドコントロール…
ストックホルム症候群に似たような現象で、
当時の私は貯金も仕事の当ても実家に出戻る覚悟も無く、
そんな状況だからこそアッサリ操られてしまったのかもしれないズ
その後は社長の家に迎えられ、夕食をご馳走になったズイ
家に送ってもらう帰りの車内で社長は私に
「仕事の覚えは早いのは見てて分かった、
次の現場はまた足場作業になるけど雑用じゃなくて基礎からやらせ
「お前、ヤル気あるか?」
今となっては頭が狂っているとしか思えないこのやり取りだが、この時はいろんな感情で涙が出そうになったズイ…
そして私は社長のこの言葉に
「やります!やらせてください!!」
と答えた
弱っていた私の心は数時間で社長に靡いてしまったズイ…
溺れるものは藁にもすがる
この言葉の通り、
翌日からは社長とマンツーマン
次の日からは今までとはうってかわって現場での扱いが変わったズ
まだ穴蔵現場の撤収作業ではあったけど、
私も決意を新たに、
ブラック企業でもイキイキと働いてる人って不思議に思えるけど、
そして長かった穴蔵での現場も無事に終了し、
次の現場で本格的に仕事を覚えるぞ!
そんな決意を胸に心踊らせながら週末を迎えるのであった
突然の掌返し、新たな現場は吹雪の中の外仕事
そして休み明があけた月曜日、
「お前とマーク爺は二人で外仕事しとけ」
え?話が違う…
しかもそう言われたときの社長の雰囲気はまるで謝罪する前のよう
「え?なにかやらかした!?なんで!?なんで!?」
せっかく持ち直したかに思えた社長との関係が急に…なんで…?
もはやメンヘラ化していた私は混乱したまま新しい現場にマーク爺と向かったズイ
訪れた新しい現場は建屋の外、仕事内容は2m×2mのコンクリートの地面を50cm程の深さまで掘るという単純なものだったズイ
しかし作業するのは私とマーク爺の二人だけ、建屋内の穴倉は作業灯の熱もあり気にならなかったけど
外は3月も中頃というのに寒く、豪雪地帯のせいか雪が降り積もる中での作業だったズイ…
どうしてこんな仕事に飛ばされたのか?一体何があったのか?
考えても何一つ分からない中、コンクリート掘削の経験があったマーク爺に教わりながら地面を掘る日々が始まったズイ…
地面を掘るのに使うのは「ハツリ」と呼ばれる道路工事などで見たことのある工具ズイ
振動が激しく、掘削したコンクリートの粉が雪解け水と混じった汚泥が飛び散り体にかかる…
雨合羽にゴーグルという装備で作業をしていたけどコンクリートの飛散やゴーグルの曇りなどで視界はすぐに遮られてしまうズイ…
さらに作業を開始して数時間後には吹雪が…
たかが50cm程度の深さと侮っていたが作業がなかなか進まないズイ…
おまけに経験があったマーク爺も外の寒さとハツリの振動によって腰をいわしてしまったズイ…
この仕事はマーク爺のような年寄りにさせるような仕事ではないだろうに…
おそらく社長に嫌われていたことでこの仕事をさせられたのだろうか?
もしそうだとしたら私は…
疑念と不安の中、考えても答えは出ない
今はただマーク爺に負担を掛けないように必死に地面を掘るしかなかったズイ…
数日後に謎が解けた…ヤツの陰謀だった
それから数日、無情なことに雪の降らない日は無かった それでも地面を掘る作業を続ける日々
そんななか昼休憩の時にトイレで出くわしたFA親父から衝撃の事実を聞くことになったズイ
それはクズオが私の悪評を散々社長に言いふらしているというものだったズイ…
確かにクズオとは働き始めた頃によく喋っていたズイ 思い返せば健康診断でやらかした次の日に
という話をクズオにした覚えがあったズイ
しかし社長に聞かれて困るような話はしていなかったはず…
FA親父にどんな事を話していたか聞いたところ…
・ブラック工業への愚痴
・私とは中学の同級生で当時はパシリだった
・昔から嘘ばかりつく奴だった
などなど… 1番目と2番目に関しては話を盛られているとはいえ、心の中で思ったことがある以上完全に否定できないズイ
しかし残りに関しては全くのデマ そもそも私とクズオは初対面だし、中学なんて実家から飛び出してきてる私とは県すら違うズイ
FA親父から聞いたこの話に絶句した私…
その場で「それは違います!」と言ったものの、FA親父は信じてくれなかったズイ…
社長に謝るときに段取りやフォローまでしてくれたFA親父はクズオの話を聞いて心底私の事を軽蔑していたんだと思うズイ…
数日前はヤル気に満ち溢れ、心機一転!頑張ろう!と思っていた矢先…
私の希望はクズオのデマによって砕け散り、吹雪の中でコンクリートの汚泥にまみれるという酷い現場に飛ばされてしまったのだった…
島流しのように飛ばされたマーク爺と私、クズオへの怒りは抑えられるはずもかった
しかしそれでも汚泥にまみれ地面を掘る日々は続く…
ブラック労働記 原発編 Season1
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