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雨の日も、雪の日も、吹雪の日も…
ひたすら地面を掘って、掘って、掘っていた…
作業自体は単純なものだったけど、
この仕事をしていた時期は天候が悪く、
日を追うにつれてマーク爺の腰の具合は悪くなり、
削ったコンクリートと水が混ざり、灰色の汚泥が全身に付着する…
身に付けていたゴーグルは体温による曇り・
更に辛いのが足元の寒さ…
雨合羽を着てるとはいえ足元まではカバーできず、
外の気温のせいで足先の感覚はどんどん無くなっていくズイ…
そんな環境では作業の効率が日に日に落ちていったのは言うまでも
それでも毎日掘った…
逃げ場がないと思い込み、これしかないと思い込み、
募る黒い情動…
島流しのような現場ではあったが、
建屋の中は私達の現場とは違い、
当たり前の事だけど、
跳び跳ねた汚泥で私とマーク爺の作業着は終業時にはいつもドロド
そんな私達を社長は
「ホントおまえら汚ねぇなぁ」
となじるのだった…
そしてこの終礼の度に私に黒い感情を募らせたのがクズオの存在だ
嘘を吐き、建屋の中で大した苦労もせず、
許さない…絶対に赦さない…必ず後悔させてやる…
そこには怒りの感情だけでなく
悔しくて、悲しくて、辛くて…
しかし今はどうすることもできない…
クズオへの黒い情動は日々募るばかりだった…
私は復讐の機会を待ち続けた、
工期は間に合うのか…?必死の共同作業
辛い環境での仕事は続いた…
日に日にマーク爺の体力が無くなっていたのが分かったズイ
しかし地面を掘る作業はまだまだ終わりが見えない、
普通の会社なら残業や休日出勤という形になるんだろうけど、
残業・休日出勤をする事は請け負った会社の能力不足と思われ、
この点に関しては一般企業も取り入れてほしい考えではあるけど、
「このままではダメだ…」
私とマーク爺は作戦を練ったズイ
それまでは二人別々にハツリで地面を掘っていたズイ
これは二人で掘っているから一見効率が良さそうに思えるけど、
それに汚れたゴーグルを洗うために蛇口のある場所まで行く必要が
このせいで二人で掘っているけどゴーグルを頻繁に洗いに行ったり
そこで私達が練った作戦が
・掘るのは1人、もう1人はサポートに
・サポートは雨や雪を遮るためにブルーシートで傘の役割をする
・2つあったゴーグルは視界が悪くなれば交換し、
・掘削して出たコンクリート片の処理は二人で手早く行う
結果的にこの作戦によって作業効率は大きく上がったズイ!
ゴーグルを洗うのも蛇口のある水場まで行くのも時間がかかるので
なりふり構ってられなかったし、
かくしてマーク爺と私は遅れた工期を猛スピードで挽回するのであ
そんな日々のなかで私はマーク爺にクズオの件を打ち明けたズイ
マーク爺は自分の事のように許せないと怒ってくれたけど、
結局クズオの件は堪えるほかなく、
マーク爺と私は過酷な環境の中で協力し・支え合い、
雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモマケズ…
だけじゃなく
吹雪ニモマケズ クズニモマケズ 工期ニモマケズ…
宮沢賢治もドン引きするであろう環境も耐え抜き、
気付けば3月も終わりに近づき、
そして困難をくぐり抜けた私に絶好の機会が訪れる
失敗できない慰労会
3月ももう終わりという頃、ブラック工業の元請けにあたる○○
その中にブラック工業も呼ばれ、私も参加する事に…
慰労会が行われる前日、終礼後に社長が私に釘を指した
「健康診断の時みたいに元請けに迷惑かけたら分かってるよな?」
私はもちろん二度と同じ過ちは犯さないと社長に答えたズイ
そして当日はお酒も出ることは分かっていたので進んで送迎のドラ
ありきたりなポイント稼ぎだけど、
なにより酒に酔っての失態だけは避けたかった
この仕事がいかに人脈・
ここで少しでもクズオのせいで失った信用を挽回できるよう私は意
明暗を分けた慰労会
慰労会の当日、仕事終わりの私は誰よりも早く現場に向かったズイ
慰労会の始まる1時間ほど前に到着した私はバーベキューの準備や屋外のテントの設営など手伝って回ったズイ
30分ほど経ったころに社長やFA親父、クズオが同じ車で到着
社長は私には何も言わなかったがクズオに準備を手伝うように指示していたズイ
いよいよ慰労会が始まり皆が食事や酒を飲む中、私はひたすら裏方に徹した
肉を焼いては配膳したり、お酒を注いで回ったり、ゴミを回収したり…
思いつく限りの手伝い・接待をこなしたズイ(これまでの人生で一番接待をしたんではないだろうか)
一方クズオも最初こそ手伝いをしていたが、○○工業の人たちに勧められたのかいつの間にかビールを飲んでいたズイ
私もお酒を勧められたけど帰りの送迎があることを理由に断っていたズイ
ここまでは計画通り
その後もひたすら裏方に徹していた私はある異変に気付いたズイ
それは
泥酔したクズオだった
酒を勧められてからどれだけ飲んだのか分からないが、クズオの振る舞いは目に余るものだったズイ…
だらしなく椅子に座りながら酒を飲み、○○工業の人と談笑していたクズオ
屋外でそれなりに大きな敷地だったけど酔ったクズオの笑い声は大きく、周りの人が振り向くほど目立っていたズイ
更に最悪だったのが○○工業の社長の嫁さんにビールを注がせていたことズイ
少し離れたテーブル席ではうちの社長と○○工業の社長が同席していて、おそらく社長も接待を頑張っていた中でのこの振る舞い…
しばらくして事態を察知した社長とFA親父がクズオを何処かに連れていくのを目撃したズイ
手伝いに徹しながら私は内心
「ざまぁみろ」
とほくそ笑んだズイ
クズオのせいで散々な目に遭った私はまだまだ物足りなさすら感じていたズイ
しばらくして戻ってきたクズオの顔は真っ青だった
後から聞いた話では連れていかれた先で氷水入りの洗面器に頭をつけられ酔いを醒まされたらしいズイ
それまでの記憶は曖昧だったけど酔いが覚めると同時にリバースもしたとか…
社長にも相当詰められただろうクズオはグロッキー状態、会場の端っこで体育座りをしたまま俯いていたズイ
私は一切話しかけることもなく、片付けに勤しんだズイ
思いがけないチャンス
かくして明暗を分けた慰労会も終わるころ、片付けを手伝っていた私は社長に呼び出されたズイ
そこで言われた内容は
「クズオを家まで送って帰れ」
というものだった
私が出していた車は4人乗りだったので他に乗せて帰る人はいないのかと尋ねたら
「吐く可能性があるから二人で帰れ」
といわれたズイ
まぁ当然といえば当然ズイ
しかしそんな中、同乗を申し出たのがマーク爺だったズイ!
帰る方向が同じだと言っていたけどこれはマーク爺の策略だったズイ
結局は私とマーク爺、そしてクズオの3人で一足先に帰ることになった
帰る前に○○工業の社長に慰労会のお礼を社長と一緒にすることに
○○工業の社長は私が裏方で手伝っていた事をとても褒めてくれたズイ
慰労会で社長の信用を挽回するという目的は無事果たされ、帰りの車を出す際には社長から
「ちょっと見直した、まぁクズオのせいで台無しになってしまったけどな…」
といったズイ
前回の健康診断での失敗を生かすことができて良かった…
無事慰労会を終え帰路につく私
そしてその車内にはクズオが乗っている…
しばらく走った頃、私はクズオにあの件についてここで決着をつけることにした
罪の清算…クズオ逝く
慰労会の会場ではグロッキー状態だったクズオ
しかし車が走り出してしばらくすると思いのほか元気そうに話しかけてきたズイ
「酒に酔ってやらかした~、やべー」
なんて言っていたが
クズオ…それは違うぞ…
残念だがお前は…
「これからもっと後悔するんだぞ」
私は人気のない道路のそばに車を停めた…
クズオは少し不思議がっていたズイ
そんなクズオに私は社長に吐いた嘘の件を問い詰めた
始めこそとぼけていたクズオだったが、FA親父から聞いたことや、マーク爺の援護もあり遂に観念したのか嘘を吐いたことを認めたズイ
私もマーク爺も手を出すことはしなかったが、クズオの嘘のせいでここ最近どれだけ酷い目に遭ったかを話したズイ
そりゃあまぁ、相当詰めたズイ
詰める度にその場しのぎの嘘がばれて更に詰める
特に酷かったのが私だけでなく、マーク爺の事も社長に嘘をついていたのが発覚したことズイ…
どうりで高齢で腰の悪いマーク爺があんな現場に飛ばされた訳だ…
結局20~30分程問い詰めた頃にはクズオは号泣していた
それでもクズオのやったことは許せる訳ではなかったズイ
マーク爺も相当怒っていたけどこれ以上クズオを詰めたところでこの先の仕事は変わらない…
どうやって落とし前をつけるか考えた結果…
「クズオ自身が社長に嘘を吐いていたと自供させる」
という形に落ち着いたズイ
号泣するクズオに対し、私とマーク爺はこの条件を飲むように言ったズイ
クズオは泣きながら絶対に言うから許してくれと謝罪した
まぁ条件を飲むまで車を動かす気も無かったので話が早くて良かったズイ
こうして一応の決着が着いた私たちは帰路に着いたズイ
マーク爺を家に送り、帰りの車内はクズオと二人きりになったズイ
少し落ち着いてきたクズオは何度か謝ると同時に、嘘を吐いた理由を話し始めたズイ…
クズオは私が社長に謝罪する少し前に別の現場でやらかしてしまったらしく、それが原因で社長に嫌われるのを恐れていたズイ
嫌われて次の定期点検工事に呼ばれなくなったら生活ができなくなる
そんな思いから周りの人間を蹴落とすことを思いついたらしいズイ
真っ先に思いついたのが私の社長への発言
健康診断の件で殴られた翌日、私がポロっとこぼした
「訳が分からない」
という発言に尾ひれを付けて社長に告げ口をしたのだった
それからはどんどんエスカレートしていき、全く関係の無い嘘まで吐くようになったと…
結局その作戦は功を奏し、クズオは社長のスパイのような立ち位置になったそうズイ…
話を聞いた私は
「今更そんなことを言われてもどうでもいい、約束したことを守らなかったら許さない」
そう告げてクズオを家まで送ったズイ
そしてクズオの家に着き、車から降りた際に私はこう言った…
「これで家の場所は分かったからな」
これは私なりの精一杯のブラフだったズイ、別に家が分かったところで約束を守らなかったら何かできるわけもなく…
しかしクズオを信用することはできない、そんな中での苦肉の策だったズイ
かくして一連のクズオ騒動に一応ではあるが決着がついた…
それでも次の日から仕事は始まる…
ブラック労働記 原発編 Season1
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