原子力発電所で働いてエライ目にあった話「第七話 造反と決別」

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鳴らない電話…

気づけばもう5月も終わりに近づいていた…

結局社長から仕事の電話が来ることはなく丸1ヶ月仕事をしていないことになったズイ

6月からは定期点検工事が始まるとはいえ、空白の期間が有るということは後々収入が無い時期が出てくる…

麻雀で取り返したとはいえ手元に有るのは僅かなお金のみ

幸い月末ということで給料が入る、しばらくは節約しつつ凌ぐしかないか…

金銭面の不安と、ブラック工業での仕事がまた始まるということで私の気分は沈んでいったズイ…

不安な給料日

5月の月末、4月に働いた分の給料日だが困った事になったズイ

ブラック工業の給料は手渡し、先月初めて貰った時は仕事の帰りに支給されたけど今回は休み中…

社長に電話を掛ければ済む話しなんだけど催促するようで気が引けたズイ…

怒られるんじゃないだろうか?
忙しいんじゃないだろうか?
連絡がくるんじゃないだろうか?

そんなことを思い結局電話は掛けなかったズイ

そして給料日だったはずの月末は何の連絡も無いまま過ぎていったズイ…

定期点検工事の開始、新たな現場

給料日の翌日、社長からの連絡をまだかまだかと待っている私に電話が掛かってきたズイ

電話の主はFA親父だったズイ

話の内容は

6月の定期点検工事が始まったから明日ブラック工業の元請けになる××工業の事務所に来い」

というものだったズイ

急な話だけど仕事なら仕方ない…

それに××工業に集まるなら社長も来るだろうし給料もその時に貰えるかもと思い翌日からの仕事に備えたズイ

翌日、今回の元請けになる××工業の事務所に向かった私

××工業の事務所は最近建てたばかりなのかとても綺麗な外観でだったズイ

駐車場で待っているとFA親父もやって来たので合流し、事務所の中に

集められた会議室には30人ほどの人が集まっていて、しばらくすると今回の定期点検工事の概要等の説明が始まったズ

待っている時にFA親父から聞いた話しでは今回ブラック工業から××工業に派遣されたのは私とFA親父の二人だけとのこと

社長や他の社員は別の定期点検工事の現場で働くらしいとの事だったズイ

社長と別の現場というのは嬉しかったけど、社長に会えば給料が貰えるだろうと思っていた私は複雑な気持ちだったズイ…

その日はミーティングの後に3月の時と同じく原発での入所手続き等を××工業の所属として済ませ1日が終わったズイ

私は帰りの車内で隣同士だったFA親父に給料の件を聞くことにしたズイ

するとFA親父もまだ貰っていないらしい事が分かったズイ

しかし麻雀での件もあり、表向きは変わらない態度で接していたけどFA親父のこの言葉を信じる気はなかった

FA親父は社長に私の事も含めて確認を取ると言ってくれたが、今日は貰えるだろうと思っていたアテが外れ、この先の生活費の都合もある…

早く給料を貰わなければ手持ちの僅かなお金では生活出来なくなるのは時間の問題点だったズイ…

××工業の親方

翌日からは本格的に原発での仕事が始まった、まずは各現場への資材の搬入をすることになったズイ

この仕事は私とFA親父の他に××工業の数人で担当することになったズイ

そして私たちを仕切るのが××工業の社員で40代の「親方」だったズイ

親方はタラコ唇が特徴的で外見はお世辞にも男前とは言えない風体だったズイ

しかし人当たりが良く明るい性格で良く、大きな声で豪快に笑う気持ちのいい人だったズイ 

そんな親方の指揮の下、仕事は始まった

ユニックと呼ばれるクレーン付きのトラックで資材を載せたり降ろしたり

私はその際の荷締めや荷解きの仕事をしていたけど社長が居ないことや、親方が色々教えてくれながら時々冗談を言って笑かしにくるので以前の現場よりも伸び伸びと働くことが出来たズイ

親方の元で働いて数日、仕事の要領も分かってきて働くことが楽しくなっていたズイ

しかし相変わらず社長からの連絡はなく、FA親父に聞いても明確な答えは帰って来なかったズイ…

限界点、決断

新しい環境で働くこと数日、土日の休みに入った私は覚悟を決めたズイ

流石にこれ以上給料が滞れば生活出来なくなる、私は意を決して社長に電話をかけたズイ!

しかし社長は電話に出なかった…

数時間後にかけ直してもコールはするものの社長が電話に出ることはなかったズイ…

「流石に明日になれば気付いてかけ直してくるかもしれない」

そう思い、不安な中その日は諦めた…

そして翌日、念のために早めに起床していたが着信履歴はナシ…

数時間毎に電話を掛けるも社長は出ず、焦りと苛立ちが募っていったズイ…

そして夜も遅くなった頃、私は決めた

「明日の朝、親方に事情を説明して仕事を辞めよう」

造反と決別…忘れていた優しさ

月曜日の朝、私は何時もより早く起きた

そして乗り合いの車で迎えに来ている道中であろう親方に電話したズイ

「親方、本当にすいません…色々事情があってこれ以上仕事に出れる状態じゃなくなりました…

親方は体調が悪いのか心配してくれたが、金銭面での事を少し説明すると事態を察したのか

「とりあえず事務所の駐車場まで来てほしい、そこで一回話しをさせてくれ」

私は親方への申し訳なさと、急に辞める以上最低限説明をするのが筋だろうと思い××工業の事務所へ向かったズイ

駐車場で待っていたところに乗り合いの車が入ってきた、運転していた親方は車を降り、別の社員が車を原発へと走らせた

これだと親方も仕事に行くのが遅れてしまう、ただでさえ急に辞めると言い出した私は罪悪感と緊張感でいっぱいだったズイ…

しかしそんな私に親方は怒ることもなく、穏やかな口調で

「どうした?困ってるんやったら相談してくれ」

と言ってくれたズイ

親方のその優しさに心は緩み、私は自分の置かれた現状を洗いざらい話した…

あまりの酷さに親方はかなり怒っていたようだった

どうやら社長と親方は面識があり、仕事の先輩後輩のような間柄だったらしい

今回の工事の件も社長がどうしてもと言うので私達を雇ってくれた経緯があったとか

二人の間柄を知り、発したことで社長からどんな目に合うのか怖くなった…

しかしそんな私に親方は

「絶対アイツ(社長)に給料は払わせる、なんかあっても守ったる」

力強くそう言ってくれたズイ

続けて親方は

「ただ定期点検の頭数に入ってしまった以上、欠員が出るのは××工業としては不味い…当面は補助するからなんとか働いてくれへんか?」

そういって親方は頭を下げた…

頭を下げるべきなのは急に辞めると言い出した私の方なのに…

私はそんな親方の頼みを断ることもできず…いや、断る道理もなく条件を飲んだズイ

親方はホッとしたような表情で

「すまん、助かる」

と言っていた、助かったのは私の方ズイ…

朝から急な話を聞いてもらって仕事にも遅刻するであろう親方は、事務所の社用車に乗り込んだ

「今日は休んでくれ!あとコレ、手持ち少ないから悪いけど当面の生活費の足しにしてくれ」

そういって二万円を私に渡してくれた…

今までブラック工業の社長の下働いていた私にとって親方のこの優しさと男気は予想外だった

…何で?何でここまで?

疑問を持つことすら失礼な話だが、私の頭は混乱し、仕事に向かう親方の車を呆然と見つめるのだった…

その後は家に帰り、頭を冷やし考えた…

親方の好意、優しさ、そして自分に何ができるのか…

もしかしたらまた…

決断することにさほど時間は掛からなかった

私は今回の定期点検工事を親方の下でやりきることを決めた

ブラック労働記 原発偏 Season2

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