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原子力発電所で働いてエライ目にあった話「第九話 車内ニート」

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原子力発電所で働いてエライ目にあった話 最終話「涙」

焦燥

激怒する親方との電話が切れた後、私は急いで病院に電話したズイ

「何時でもいいから今日!診断書が必要なんです!!」

数日前に診断を受けた病院で、レントゲンなども撮っていたので診断書はすぐ書けるはず!

診断書さえあれば親方もなんとか納得してくれるだろう…!してくれなくちゃ困る…
幸い平日の昼頃だったためか夕方にはなるけど予約が取れたズイ

そこから予約の時間までは何も手がつかなかった…

気が気がじゃないと言うべきか、落ち着かない、そわそわする…

「親方になんて説明すればいいのか…」

あれほど怒った親方なんて見たこともなければ想像することも出来なかったから…

頭の中でいろんな言葉が浮かぶ、取りつく島すらなかったらどうしようか…

気づけば家を出なければならない時間になっていたズイ

診断書

予約の時間の30分前には病院の駐車場に到着した私

待っている間も相変わらず頭の中は親方への弁解の言葉だけだったズイ…

診察の順番になった私は膝の経過を尋ねられたがそんなことはどうでもよかったズイ

今日来た目的は症状云々ではなく、とにかく診断書を書いて貰うことだった

医者の言う症状がどうのという話は頭には全く入ってこず、話が一段落したところで私は診断書を書いて欲しいことを伝えたズイ

 

医者は特に何も言わずに分かりましたという感じだったけど、ただ病名を書いてもらうだけでは足りないと思ったズイ

私は職場に提出するので仕事ができるかどうかの所見も書いて欲しいと言ったズイ

そんな私の話を聞いた医者は

「仕事の内容にもよるが現状なら最低2週間は安静にしたほうがいい」

と言ったズイ

親方はこれで納得してくれるだろうか?

「今後もこの仕事をするとしたら手術したほうがいいんでしょうか?」

確信犯的な誘導だが私はそう切り出したズイ

流石に医者も困った様子だったが曖昧な言葉づかいで

「まぁ…今とまったく同じ負荷が掛かる上で仕事を続けたいなら…そうなりますかね…」

ここぞとばかりに押し込んだ

「じゃあそのことも所見に書いてくれませんか?仕事をするなら手術が必要だと」

職場への診断書と膝の症状で察してくれたのだろうか?思いのほか医者はあっさりと所見を書いてくれたズイ

[最低2週間の安静と今後仕事を続けるのであれば要手術]

病名と共にそう書かれた診断書を私は手に入れることができたズイ

金銭面からすれば、紙切れ1枚で2000円はする診断書はかなり痛かったが、これで親方の誤解が解けるのなら安い物だと思ったズイ

しかしその日は夜になってもなかなか眠ることができなかったズイ…

明日の朝、親方と会って診断書を渡し誤解を解く…

たった二つの事なのに、それが上手くいくイメージが浮かばなかったズイ

結局何重にもアラームをセットし、その夜は眠れたのか起きていたのか曖昧なまま時間は過ぎていったズイ

長い数分…

夢の中なのか、それとも意識だけぼんやりしていたのかは分からない…セットしていたアラームが鳴った

頭が重い、眠気も…そして何より親方と会うことが憂鬱だったズイ…

もし会ってもこの前のように激怒されたら…

嫌なイメージばかり浮かんだが、それでも覚悟を決めなければならなかったズイ

 

おそらく乗り合いの車で家を出た頃であろう親方に、私は意を決して電話を掛けたズイ

 

 

ほんの数コールの間に頭の中でいろんな想像が浮かんだ…

電話に出て欲しい気持ちと、出ないでくれと願う思いが混じり合った

多分どれだけ心の準備をしていてもこの結果は変わらなかっただろう…

頭の中がいろんな思いでグルグルと回る、そんな中コール音が途切れた

「もしもし」

電話に出た親方の声は、いつもとさほど変化はなかったズイ

少し前はあれほど怒っていたのに…その声色で少しだけ私の心は落ち着いた

しかし私はあれだけ頭の中で考えていた弁解の言葉が出てこなかったズイ…

口の中が乾いたような感覚の中

「すいません…」

この一言が精一杯

それを聞いた親方は

「なんや…なんか言いたいことあるんか?」

親方の声からは感情が読めなかったが、会話が続いたことがありがたかった…

 

「…すいません…膝の件なんですが…自分が周りからどう見られるかも考えずに、いい加減な事をして親方に迷惑を掛けてしまいました…

ただ病気の件は一切嘘はついてません…病院で診断書と今後の処置についても書いてもらったので、それだけでも受け取ってもらえませんか?本当に申し訳ないと反省してます…」

 

親方は少し黙った後

「わかった…俺も昨日は怒りすぎたわ…この前みたいに事務所の駐車場に来い」

 

そう言ってくれたズイ…

「なんとか…繋がった…」

まだこれから親方と顔を合わせなけらばいけないけど、私は大きなため息とともに安堵したズイ…

時間にすれば僅か数分の電話のはずが、終わったころには頭が疲れ果てていたズイ…

対面

それでも今から事務所まで行かなければならない

親方が以前のように怒っていなかったこと、診断書を受け取ってくれるということで私の気分はかなり楽になったズイ

それでも事務所の駐車場で車から出て待っている私の頭は相変わらずネガティブなイメージばかりだった…

しばらくして見覚えのある車が視界に入った

運転席には親方が見えた、緊張が一気に増す中で救いだったのは、ガラス越しに親方が笑っていたのが見えたからだった

おそらく助手席の社員と何か話していたのだろう…

自分に向けられている笑顔でないのは分かっていたけど、それだけでも緊張はほぐれたズイ

車を停め降りて来た親方に私は第一声から謝った

少し気持ちが楽になったのか、頭の中に有った謝罪と弁解の言葉はしっかりと言うことができたズイ

親方は小さく頷きながら

 

「まぁ、病気の件はほんまやろうし…とりあえず上に話しとく また仕事終わったら連絡するわ」

 

そう言って診断書を受け取り親方は仕事に向かったズイ

私は駐車場を出る車に頭を下げ続けた…

申し訳ない思いと、怒るわけでもなく話を聞いてくれた親方への感謝で一杯だったズイ

解ける誤解と仕事

親方の車が見えなくなった後、張りつめていた緊張が解けたのか私はしばらく力が抜けてしまったズイ

車に戻ってシートにもたれかかり、ただただ「よかった…」と思ったズイ

家に帰ってからはベッドに倒れこみ、気づけば昼前まで寝落ちしていた…

朝から何も食べてなかったが、飯を食べる気もしない…

昨日まであんなに頭の中で色々考えていたのがウソのように呆然としていたズイ

 

しかし12時も半ばを回ったころに電話が鳴った、親方からだった

私は不思議と何の緊張も無く電話に出ることができたズイ

 

「おう!言うてきた奴に詳しく話聞いたらアイツ適当な事ばっかりやったわ!

あんな怒ってもうてすまんかった、上にも話はつけたから!」

 

電話に出るなり話し出した親方、話の内容よりもいつものトーンで喋っている親方に心がホっとしたズイ

少し遅れて内容を理解した私は尚更安堵した

 

よかった…誤解が解けて…よかった…

 

生返事しかできなかった私に親方は話を続けた

「上も分かってくれたみたいやけど、これ以上休みが続くと流石に元請けから突かれるかもしれんらしい」

「仕事は一切せんでいいから悪いけど現場に顔だけ出してくれんか?」

今一つ理解が及ばなかったが、ここまで親方が動き回ってくれていることに私は嬉しくて泣きそうだったズイ…

こんな親方にこれ以上迷惑はかけれない

私は痛み止めを飲んででも仕事をする覚悟決めたズイ

この定期点検工事が終わるまで膝がもってくれればそれでいい

私は明日から仕事に出る、「出させてください!」

親方に強く返事をした

親方

翌日、およそ一週間ぶりに乗り合いの場所で待っていた私

誤解は解けたとはいえ、親方に会うのは悩ましかったズイ

どんな顔して会えばいいのか…親方は何か言うだろうか?

そんな思いが募る中、乗り合いの車がやってきた…

 

フロントガラス越しに親方の顔をまともに見ることもできず、後部座席のドアを開けた

そして挨拶をしようとした矢先

 

「おう!おはよう!膝大丈夫か?」

 

陽気で大きな声で親方が話しかけてくれたズイ

 

ほんっと…この人は…ありがたい…

 

朝から不安がっていたのが急に馬鹿みたいに思えて口元が緩んだ

「おはようございます!すいません長いこと休んで迷惑かけました!」

心からそう口にできたズイ

「おう!無理すんなよ!」

そういって親方は車を走らせた、心は穏やかだった

車内ニート

原発に入り、詰め所に着いた私は親方と共に××工業の所長に話をしにくことになったズイ

親方の上司に当たる人で、各現場の人員・工程管理をしている人だった

所長は話を知っていたようで、私の膝を心配してくれたズイ

私は仕事に穴を空けてしまった件の謝罪と、これから先は出勤できることを話したズイ

 

所長も「無理はするな」と言ってくれたが私の心は決まっていた

その後はいつも通り各現場ごとに分かれて仕事に向かったズイ

休んでいる間に新しい現場に移っていたようで、どんな仕事か気になったズイ

 

しかし親方は現場に向かう車の中で皆にこう言った

「こいつまだ膝働ける状態じゃないから、当分車に残すからな」

私は意味が分からなかったズイ…

 

車内の他の人達は意味が分かったようで、みんな心配しつつも不思議と盛り上がっていた…

「お、ラッキーやな!たまにこういうのあるからな~」

「俺もむかし骨折した時そうやったわ、ま、気にする必要ないぞ」

今回の定期点検工事でずっと同じメンバーで働いていて中の良かったベテランの人たちは楽しそうにそう言ったズイ

 

???

 

いまだに理解できないまま現場に到着した数分後、やっとどういう事か理解したズイ

 

それは車の中で1日何もしないで過ごす

「車内ニート」

だったズイ!

皆が工具やらを抱えて現場に向かう中、エンジンをかけた車の中にいるよう言われた私…

申し訳ない気持ちが止まらなかったが、親方が

「俺らの仕事は働けんくなったら生活できんくなる奴も多い、そういう時のための助け合いの知恵や」

そう言ったズイ

どうやら昔からこうやって凌ぐ方法が確立されてたのだろう、親方は私に所内の地図を渡し

「この辺に影になるところあるから、そこに車止めてシート倒して寝とけ!」

 

 

いや、まさか…仕事サボって隠れて金貰うなんて…

 

あまりの突拍子の無い言葉に呆気にとられるしかなかったが、どうやっても働かせてくれない親方の手前

私は指定された場所に車を停めて身を隠すようにシートを倒したズイ…

用意が良いことに、後部座席には親方が用意したのだろう漫画が沢山あった

初めの数時間こそ意地で手を伸ばさなかったが、スマホも無かった当時、車内で暇を潰すことはできず…

 

気付けばそこには花の慶次を読み漁る私がいた…

「膝が壊れてもいい!絶対にこの工事の間は働く!」

そう決めて一日も経たないうちに私は立派な車内ニートになったのだ…

 

それでも漫画を読み漁る日は続く…

 

ブラック労働記 原発編 Season2

次回

ブラック!ご期待ください!

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